起床。
朝、8時だ。
監査法人の朝は---遅い。
朝に弱い朝比奈にとって、
これは本当にありがたい。
そういえば---
この前、9時に起きたことがあったな。
当然遅刻なのだが、事務所での勤務日だったため誰にも特に何も言われず、普通に出勤した。
しれっと「うぃーーーっす」みたいな感じで、いつものテンションを保ちつつ、朝比奈は華麗な遅刻出勤を演じてみせたのである。
8時に起きたその日は、もちろん余裕をもって定時前出勤ができた。
うん、珍しいこともあるもんだ。
定時より数十分遅れで、同期が事務所に出社してきた。
私が遅刻するときと同じく、「うぃーーーっす」というテンションだ。
基本的に、監査法人の人間は時間に対する意識が薄い。
もちろん、クライアントのところに向かう日はちゃんと時間通りに現れるのだが、
事務所日に時間通りきっかりに現れる人は少ない。
「出勤時間?何それおいしいの?」
というスタンスである。
もちろんこれは、退社時間も守られることがないという裏返しでもある。
「定時?何それおいしいの?」
ということだ泣
場面は事務所に戻る。
同期「おう、朝比奈。そういえば事務所の近くに、うまそうな店発見したんだよーーー、今日の昼飯で行かね?」
朝比奈「いいねぇ、混んでる中行くのもイヤだし、ちょっと早めに事務所出ようぜ」
この日は、監査法人の用語でいう「ブランク」の日だった。
「ブランク」とは、いかなるアサイン(上司の下で、ある特定のクライアントに関する仕事をせよと指定されていること)も入っておらず、
完全に自分の裁量で仕事を進められる日である。
溜まっている仕事を片付けるのもよし、
ビデオ研修を受けて自己研鑽しても良し、
何もすべきことがなければ有給を取ってもよし、のように自由に過ごせる1日である。
朝比奈は午前中はそうそうに仕事を切り上げて、
同期と昼飯に向かった。
向かった店は、某テレビ番組で紹介されたこともあり、
多少なりとも有名な店だった。
同期と仕事や、合コン、女の話などをしながら、
このお店の名物、スープカレーを頬張る。
少しピリッとして辛いが、熱々で美味しい。
あっという間に平らげる。
昼飯を食べ終わると、残りの昼休みの時間を潰すために近くの喫茶店に入った。
喫茶店ではアイスカフェラテを頼んだ。
まったりとくつろぎながら、同期と会話を楽しむ。
誰々に彼女ができた、とか、
誰々が結婚するそうだ、とか、
誰々が異動するみたいだ、とか、
誰々が昇進するみたいだ、とか、
誰々が退職して独立するみたいだ、とか。
監査法人はうわさ好きな人が多い。
会社の機密情報は死んでも守らないといけないため、
大っぴらに話せない情報が多い。
誰かに話したくても、話せないことが多いのだ。
そういったフラストレーションを晴らすかのごとく、他人のうわさについてはみんな好き勝手に言いふらしたいのかもしれない。
朝比奈は他人のうわさなど心底どうでもいいと感じているが、
うわさ好きな人間が多いこの環境にいると、そういう他人のうわさが朝比奈の耳にも、嫌でも入ってくる。
その中でも、元モデルの美人と結婚した先輩の話は羨ましかったなー。
…M性感にハマりまくってる先輩の話もあったな。
これこそ心底どうでもいいが笑
昼休みの終わりの時間が近づいて来たため、
カフェラテを飲み干し、事務所に戻ることにした。
昼からの仕事は、とある上場企業の有価証券報告書のチェックだ。
有価証券報告書のチェックは、非常に重要な作業だ。
有価証券報告書にはその会社の一年の財政状態、経営成績が開示されるわけだが、
その情報は当然、全て会計士の監査済みの情報となる。
つまり、我々会計士の一年間の監査の成果も、この一つの書類全てに集約されるということだ。
この有価証券報告書に誤った情報が開示されてしまうということは、我々会計士が一年間やってきたことが無に帰してしまう、ということでもある。
また記載内容が間違っていれば、内容次第では即、訂正報告書を提出しなければならない。
これは、その会社にとっても、その会社の監査を担当した監査法人にとっても、非常に恥ずかしいことなのである。
クライアントにそういった恥ずかしい思いをさせないよう、訂正報告書なんて絶対に出させないよう、我々会計士は厳正に有価証券報告書をチェックしなければならない。
このように開示書類の監査は、非常に大事なのである。
朝比奈も、個人的にはこれが一番重要な業務だとも思っている。
さて、早速その会社の有価証券報告書をチェックをし始める。
…上場企業といえども、いくら経理の人が優秀でも、この書類を作っているのはあくまでも人間である。
当然、記載内容が間違っていることも多々ある。
ましてや、100ページを超える、超ボリュームのある書類なのだ。
間違いがない方がおかしいのである。
監査法人でそれなりに経験を積んできて、それなりに年次も重ねており、かつ注意深くチェックをしていれば、間違っている箇所なんていくらでも発見することができる。
朝比奈も我々が頑張って作り上げた監査調書と、有価証券報告書の記載内容とを見比べながら、注意深くチェックを進めていった。
一通りチェックが終わり、間違っている箇所をまとめて会社の人に修正を依頼する。
さあ、クライアントに電話をかけよう。
朝比奈「・・・というわけで、今回の有報で修正すべき箇所は以上になります〜」
クライアント「分かりました〜、ありがとうございます〜。また修正が済み次第、修正版を送りますね〜」
朝比奈「ありがとうございます、よろしくお願いします。…何もなければ、これで確定ということで、大丈夫だと思います」
クライアント「何もないことを祈りますわwww
…いやー、今期は年度中に色々なことがあって大変でしたね。。。
来期はもうちょい楽になれば良いんですけど(笑)」
朝比奈「とはいいつつも、御社は積極的に海外展開などもされておりますし、企業結合なども行われてたりと、非常に様々なことをされてますからね〜」
クライアント「そうなんですよね〜(苦笑)そういう風にいろんなことが起きると、その度に会計処理どうしたらいいか、時間をかけて悩まないといけないんですよね〜泣」
朝比奈「まあ、また悩ましいことが起きましたらご相談ください!こちらでもチームで検討しつつ、御社と、どういった会計処理をすべきか議論できればと思いますので」
クライアント「そうですね!またぜひご相談させてください(笑)そうそう、また今度の決算合同打上でも、よろしくお願いしますね!」
朝比奈「はい、ぜひよろしくお願いします!…今度は飲み潰れないように気をつけないとですね(笑)」
クライアント「朝比奈先生は酒強いからな〜(笑)同じペースで飲んでいるとこっちがやられちゃいます(笑)」
朝比奈「いやいや(笑)僕は全然人並み程度ですよ(笑)では、またよろしくお願いします。」
クライアント「はーい、失礼しますー。」
電話を切り、会社の人から修正後の原稿が送られてくるのを待つ。
送られてきたら、あるべき形にきちんと修正なされているか、確認する。
…うん、大丈夫そうだな。
パートナーにもレビューを依頼しておこう。
こういう開示書類は、「おかしいな?」と思う箇所はガンガン会社の人に質問をすべきである。
そして、その箇所が間違っていた場合は、「こう修正するべき」というソリューションも合わせて提案できると、クライアントからは感謝される。
クライアントも、間違えたいと思って有価証券報告書を開示するわけではない。
そこに不正や、粉飾の意図がない限り、できるだけ正しい情報を開示したいと考えているのだ。
だからこそ我々会計士は、そのクライアントの意思を尊重し実現するため、全力を尽くしてチェックを行うのである。
この開示書類のチェックは、朝比奈が会計士の存在意義を実感できる、そして「仕事した感」を感じることができる瞬間の一つである。
…気づいたらもう定時が過ぎているな。
今日は、仲の良い先輩、同期、後輩との飲み会だった。
なんでも、テラス席でBBQが楽しめる店らしい。
なるほど、楽しみだ。
今日も一日頑張った、うん。
明日もまた、頑張ろう。
そう思いながら、朝比奈は同期と共に、BBQ会場へ向かうのであった。
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